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神戸地方裁判所 昭和50年(ワ)122号 判決

原告破産者

新日本総業株式会社

破産管財人

西田嘉晴

被告

青井源次郎

右訴訟代理人

野村光治

主文

一  被告は原告に対し金七四〇万円を支払え。

二訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は仮に執行することができる。

事実《省略》

理由

一訴外新日本総業株式会社が昭和四九年一一月一四日神戸地方裁判所において破産宣告を受け、原告が破産管財人に選任されたことは当事者間に争いがない。

二〈証拠〉を総合すれば、破産会社は、経営資金に窮し、昭和四九年六月頃から金融業である被告より金融を受け、同年九月当時被告に対し別紙目録三記載の約束手形、小切手を振り出し交付していたが、同年一〇月一日他の手形につき不渡を出したこと、右不渡の事実をその当時銀行協会の発表で知つた被告は、急遽破産会社に申しいでて同年一〇月二一日破産会社から、前記約束手形、小切手の代物弁済として別紙目録二記載の約束手形を受領したこと、右目録二記載の約束手形は、破産会社が訴外森口運輸株式会社から売渡土地代金の弁済のため交付を受けていた支払の確実なものであり、かつ、その総額は、前記目録三記載の約束手形、小切手の総額よりも二倍近く上回つていること、破産会社は、前記代物弁済をした一〇月二一日他の手形についても第二回目の不渡を出して、同年一一月一四日破産宣告を受けるに至つているものであり、破産会社代表取締役田中五生および被告は、前記代物弁済当時、それが他の債権者間の平等を害するものであることを知つていたことがそれぞれ認められ、これに反する証拠がない。

右認定事実によれば、破産会社は昭和四九年一〇月二一日被告に対し別紙目録三記載の約束手形、小切手の代物弁済として同目録二記載の約束手形を交付したが、破産会社、被告ともその当時、他の破産債権者を害することを知つて右代物弁済をなしたものであることが明らかであるから、右代物弁済行為は破産法七二条一号に該当し、破産管財人である原告において、それを否認できるものといわなければならない。

二被告は、右代物弁済は、手形の支払に関するものであるから、破産法七三条により、これを否認できないと主張する。

しかし、破産法七三条第一項は、約束手形の振出人、小切手の支払人が破産者である場合、これらの者が満期日もしくは呈示の日に弁済の提供をしたとき、手形小切手所持人は、その受領を拒否して支払拒絶証書を作成することができないのに、後日その受領を否認されることになると、破産者から弁済を受けられないだけでなく、拒絶証書の作成その他前者に対する償還請求の手続をとつていない関係から改めて前者に対して償還を請求することができず、結局、破産者から支払を受けなかつた以上の不利益を被らせることになるので、これを避けるために、前記のような手形の支払を否認し得ないものとしたものであり、手形の支払を一般的に否認の外におこうとしたものでないことはその規定の文言自体によつて明らかである。しかるところ、本件では、被告の所持していた別紙目録三記載の約束手形、小切手につき、破産会社以外の手形義務すなわち前者(裏書人)の存在事実は全証拠によるもこれを確認できないから、硬産法七三条の適用の余地がないといえるばかりではなく、かりに前者があつたとしても、前記認定事実によれば、破産会社は被告に対し、別紙目録三記載の手形中番号1については満期一〇経過後、同番号2ないし5については満期前に、しかもすべての約束手形、小切手につき代物弁済の方法により弁済をなしたものであることが明らかであり、右の場合、破産会社が右のような時期、方法による弁済提供をしてきても、被告においてその受領を拒絶して前者に対する償還請求権を確保できたものであるから、破産法七三条を適用すべき限りではない。

三そうすると、被告は、原告に対して、別紙目録二記載の手形のうち、原告の求めている別紙目録一記載の手形を返還すべき義務があるところ、〈証拠〉によれば、被告は、昭和四九年一〇月二七日森口運輸株式会社に対し同目録一の手形を含む同目録二記載の手形全部を返還してこれと引換えに同会社から満期の短縮された手形を受領し、その後その手形金を受領していて、右目録一記載の手形についてはもはや原告に対し引渡不能であること(この点当事者間に争いがない)が認められるから、破産法七九条により、被告は原告に対し別紙目録一記載の約束手形の返還に代えて、その額面どおりの金員合計金七四〇円を償還する義務がある。

四よつて、被告に対し右金七四〇万円の支払を求める原告の請求は正当であるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。 (広岡保)

〈手形目録一、二、三省略〉

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